カラム思考: ADHD的な思考を反芻思考からの脱却に利用する
ADHD的な思考の癖
過度な連想によって文脈から逸脱しやすい
「キャリアについて考えよう。ITデザイナーを目指したいな。デザインの勉強しなきゃなぁ。Non Designersガイド読むか。TouchDesignerもやらなきゃ。でも古いって言われたな。怖かったな。でもMaxは役に立ちそうだ。勉強進めなきゃな。サウンドアートの人脈作りにもつながったりしないかな。酒井くんに連絡入れなきゃ。こういうタスク避ける癖あるよな自分。どうやったらオープンな人間になれるんだろう。チャラくなりたい。なりたくない。クラブ通いしなきゃ。先週以来行けてない。アルベムは売れるんだろうか。…」
典型的なADHD思考の例。異なる文脈・レイヤーに属するものが連想によって同じ平面上に溢れかえってしまい、構造化されないまま思考がストップしてしまう。
かつ、僕の場合反芻思考が強い。
思考が一か所でループしてしまい、深い思考がしづらい。問題の切り分けや知識の体系化が苦手。
思考枠組みへの応用
ただこの癖は問題を切り分けるためのボックスを用意するための思考として活用できるかもしれない。
上の例だと「将来」という問題に対して一瞬で「IT業界でのキャリア」「音楽面のキャリア」「学問の実績」「アート界隈へのコミットメント」という複数の問題系(=ボックス)を無意識下に設定している。それをきちんと認識して構造化し、順番に処理していけばうまいこと思考できるんじゃないか。
try_01
「クリスマスどこ行こう」
中華食べたい。遊園地とかでもいいのかなあ。あとは映画?エアビー?
通常はこれを反芻するだけ。
ここでいったん思考を切り、ボックス化。
中華⇒食事
遊園地⇒施設
映画⇒コンテンツ
ボックスに沿って新しい具体例を順番に考えていく。
食事⇒中華、イタリアン、フレンチ、和食、洋食、カフェ、エスニックとか…
施設⇒遊園地、江戸東京博物館、チームラボ、エアビー
コンテンツ⇒映画、美術館、漫画やアニメのイベント展示、音楽イベント…
この思考パターンを整理すると下のような図式にできる。
第一段階:強い具体例
最初に「思いつき」として生まれる具体例。手癖や習慣に沿っていることが多い。異なるレイヤーの話がないまぜに平面化されがちなのが特徴。ここから先に進められずに思考が絡まってしまうことが多い。
ここで大事なのは「本気で考える」こと。当事者として、腰を据えて考える。
第二段階:抽象化・ボックス化
強い具体例からの脱却のために具体例をボックスとして抽象化する。
第三段階:弱い具体例
ボックスに沿って新しい具体例を考える。
なぜうまくいくのか
第二段階の抽象化によってズレがうまれ、そこに外部からアイデアが「やってくる」。
いいな。これやると考えるのが楽しくなりそう。
しらないものを考えるための思考!!
基本はこの三段階だが、仮固定的に1周した後、「弱い具体例」をさらに抽象化・ボックス化することで操作可能なパラメーターを増やすことができる。最初はとりあえず3つのボックスを作り、弱い具体例からさらに新しいボックスを作ってパラメーターを増やす、みたいな。
try_02
「新バンドでダンスミュージックを作りたい!」
第一段階
自分の引き出しにあるのはJames Blake, The xx, バンドだとDAN,やMount Kimbie。Drake, Kelela, Jayda Gあたりも好きだな。K-POPの中でも結構UKガラージっぽいやつが好きだ。もっと趣味広げなきゃなぁ。RYM見よう。
結局ポストダブステップとかUKBが好きなんだな。
第二段階
UKガラージ⇒「国・文化圏」「サブジャンル」
バンド、K-POP、Drake云々⇒「形態」
第三段階
「国・文化圏」⇒UK, US, あえてゴリゴリジャパン?アフリカ、ヨーロッパには何がある?中南米は?
「サブジャンル」⇒ガラージ、ベースミュージック、ハウス、テクノ、マイアミベース、ドラムンベース、ファンクやポストパンク、ニューウェーブ、ハードコア/ロックンロールもダンスだった!/ダンスとしてのアンビエント?…
「形態」⇒バンド、DJ、モジュラー、マシンライブ、カラオケ、ラップ、物をたたいて音を出す…
第二段階(n+1)
バンド、DJ、…⇒「人数」「インストゥルメント」「パフォーマンス形式」
第三段階(n+1)
「人数」⇒あえての100、むしろ0?4、可変、曲や回によって変わる...
「インストゥルメント」⇒楽器、DJ、シンセ、日用品、アルゴリズム、街の騒音、会場内のアンビエンス...
「パフォーマンス形式」⇒ライブ演奏、ライブエレクトロニクス、歌と踊り、インスタレーション、映像鑑賞、参画…
カラム思考
エクセルに表を作るイメージ。まず3列の表を作って書き出し、出てきたものを再分類してさらに列追加することの繰り返し。
ボックス同士は相互に関わりあうし、異なるボックスにまたがって存在する概念の方が多い。あくまでも思考の処理のための便宜的な分類である、という感覚を忘れないこと。
反芻思考は「強い具体性」の中に留まってしまうこと。エクセルの表で言うと一つの行(raw)の中に閉じ込められている状態。
この思考法では強い具体例から抽象的な属性を抽出し、表に新たな列(column)を追加することで反芻を打ち破ることができる(かもしれない)。
なのでこの思考法をカラム思考と呼び、実践したいと思います。
この思考法の良いところは「強い具体性」に縛られる自分自身を否定する必要がないところ。むしろ強い具体性への思考を本気で押し進め、それをカタパルトにしてカラムへ、そして弱い具体性へとジャンプする。
僕は言語よりも視覚的イメージで思考を進めてしまうことが多い。頭に張り付いた視覚イメージは「強い具体性」以外の何物でもなく、それを一度宙づりにしないと、「考えたことのないことを考える」ということができなくなってしまう。そうしたイメージも要素抽出してカラム化してあげることで他の可能性を考えることができるようになる。
おそらく多くの人はこの過程を無意識にできているんだろうけど自分はそれを意識的に対象化しないといけないのがつらいところ。
参考文献(というほどでもない)
郡司ペギオ幸夫『やってくる』(医学書院、2020)